乗り遅れたっていいじゃない

 人生を生きていく上で、ひとは誰しも流されているなぁと感じることが多いのではないだろうか。

 特に、日本社会というのは、欧米のように個人主義が浸透しておらず、いわゆる"和をもって尊しとする"(これはその昔、聖徳太子が作ったとされる十七条憲法の文言である)という日本古来からの集団主義がいまだに健在であり、周りのとの協調性が求められる風土であるから、自分を自立した意志を持った個人として考えた時は流されていると感じられる場面も多いだろう。

 例えば、女子高生を見ても、都会などではみな化粧は濃いめに短いスカートでルーズソックスというお定まりの格好で皆が皆そうしているのを見ると、本人がしたくてしているというよりは、みなに合わせてそうしているというように見る方が適当ではないだろうか。

 また、今現在いわゆる"お受験"たる中学受験が活発であるが、小学校高学年の子ども達はみな夜遅くまで塾に行き、働いているしている私とかとさほど変わりない時間に帰ったりしている(学校が終わってから塾に行けば当然そうなろう・・・)が、そんな小学校6年生くらいで、自立的思考と指向を持って塾に通っているお子さんが多数を占めるとは思われず、どちらかと言えば、親に言われたから勉強しているという場合が多かろうし、その親にしたってその子を私立中学なりに入れたいという気持ちには周りもそうだからそうするという協調の気分も強いのではないだろうか。

 また、女性向けファッション誌などでは、この春のマストアイテムとかいった語が出てきたりするが、マストって英語で"must"=「〜しなければならない」という強制を示す助動詞だから、そろえなければならない小物という意味になるのだろうが・・・そんなに必ずそろえなければならないアイテムを知ってまで世の流れに合わせようとまでしているのを見ると・・・日本人は流されがちな人種だという感を強くする。

 そんなことを言っている私だって流されていることには違いない、一人の勤め人としてやっていく日常、自分も流されがちなのが分かるからこそ、こういうことを思ってみたりもするのだ。

 でもそれは今始まったことでない・・・昔からだ。

 自分が流されているということを感じた象徴的な思い出がある。

 小学生低学年の頃、なんかの都合で・・・多分風邪かなんか引いてしまったのだと思うが、授業を休んでしまったのだ。

 その時の算数の授業で、僕が休んだ時に、次のような計算の便法が教えられたらしい・・・休み明けの授業でその計算法が使われていたのをみて、初耳だった僕は大いにあわてた・・・先生に質問までしてしまったし、この方法がわからないとなんか今後の勉強において大幅に乗り遅れるのではないかって思ったんだ。

  今思えば、そんなに難しい計算法ではなかったし、この方法が分からないままでも別に大したことではなかったかもしれない。

 しかし、このことに象徴されるのは、僕がある意味真面目と言おうか、そんな小学生低学年の頃から、世間的な流れに乗り遅れるのがいやだという観念を持っていたということだ。

 だから、その後、学生時代を通じて勉強とかをがんばったのもそういう観念の持ち主であったということに大いに起因することであろうし、世間的な流れに乗り遅れまいとがんばってきたということだろう。多少の無理だってしてきたと思う。

 大学に行ったというのも、それほど勉学への情熱に駆られていたというよりは、世間的な流れに乗り遅れまいという意識によるところもあったのかもしれない。

 でも今思うんだ・・・もう、流されることはないんじゃないか・・・自分の考えで動いてもいいじゃないか。世間的なマストアイテムを追いかける必要はないだろう。そう思う。、

  思えば僕も、もう30だ。結婚とかを意識してもいい年代だし、親からもそれをほのめかされることもある。


 過去には世間的な流れに乗り遅れまいという意識からの結婚への願望というものがあったこともある。

 なにもこれは僕に特有のことではなかろう・・・みな多かれ少なかれそういう形での結婚願望というのはあるだろう。

 実際、特に女性の場合はそういう感覚が強いのだろうか・・・24歳とか29歳とか、25歳・30歳と言った切れ目の年齢を前に結婚願望が強くなる場合があるということも聞いている。

 でも流されなくったっていいじゃないか・・・そんな風に思う。


 だから、敢えて30代になったからといって動いてはいない・・・なるほど、動こうと思えばいろいろな手段はあろう、合コンなりお見合いなり結婚相談所に登録なり・・・でも、動いてはいない。

 さっきの計算法だって別に覚えなくったって大丈夫だったかもしれないのだから・・・あの頃、あんなにあわてて先生に質問したりして、それはそれで今ではこっけいささえ漂う話だから。

 いいじゃないか、乗り遅れたって。無理をするものじゃない・・・こういうことは。30ビギナーの僕は思ってみた。

 そういう夜更けの決意はつかの間の夢に消え・・・明日の朝はまた・・・通勤電車に乗り、人並みに流されるのだろう・・・

 でも、この語りは残る。

 

 (2003.6.7)

 

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