夏の電車内の出来事
 

 そう、あれは高校生のころだったからずいぶん昔のことですね。まあ、私は朝、学校に行くために電車に乗っていたんですよ。その日は結構混んでいたと思います。満員列車だったと思います。電車が急ブレーキかなにかをかけて大きくゆれたんですね。

 満員列車がゆれるとたいてい、人の肩甲骨なりがぶつかってきて痛いとか、かばんの角が当たってくるとか、要するに、「硬い」なにかがぶち当たってくるイメージってありますし、実際結構そういうことは多いですよね。

 でもね、その日のその時の急ブレーキの大揺れではなにかそういう「硬い」何かが当たってくる感覚じゃなかったんですよ。そう背中になにかは当たったんですが、やわらかいというか、それまでの経験上ちょっと何が起こったのか分からないような感覚だったわけです。でも、ゆれた後電車はふつうに走り始めましたので、深くは追求せずにもとのポジショニングに復帰しようと思ったのですが、その瞬間、後ろから女性の声で「すみません・・」

 なにかなと振り向くと、OLらしい若い女性(そのころの私からすれば、いわば、「お姉さん」という感じですね)が「背中に口紅つけちゃって・・・すみません」という旨のことを言っていました。
 そうなんです、ゆれた瞬間私の背中(夏服の時期でしたので半袖のワイシャツでした)に口紅でキスマークをつけてしまったようなんです(まあ、そのころから私は178〜9センチくらいの長身でしたので)。

 私は「いやいや、いいんですよ・・・。」といった旨をごにょごにょとくちごもりながら言ったと思います。それでその女性とのやり取りは終わったのでしたが。

 でも、心中、偶然キスされてしまったことを喜ぶほど余裕なく、また、すれてもなく、正直、困っていましたね。まだ朝だしこれから一日学校にいるのにこのキスマークちょっと目立つよなあ、変に誤解されたらどうしよう・・・なんてね。
 実際、学校に行って一日過ごしましたが、まあ、誰が冷やかすわけでもなく、ま、クラスの女子が私の背中を見てなにかちょっとなにか言っていたようでしたが、それも、別に冷やかされるでもなく・・・。自分が困ったと思っていたほどにはそんなに困らなかったわけです。

  高校時代だったから大した誤解もされようがなかったわけですが、今現在そういうことがあったら結構すごい誤解に発展するかもしれませんね。もてない男の私にとっては、ちょっとうれしい誤解なのかもしれませんが、誤解はしょせん誤解、すぐむなしくなりますよね。そんなことを考えている前にもっと現実的な解決を目指さねば・・・。

 暑い日の満員電車、なんか、思い出してしまう出来事です。

                                      (1998年7月9日、最高気温35℃)
 
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